楽譜監修とその記録 柳澤康司|
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日本人作曲家の室内楽作品の楽譜の監修を進めて来ましたが、いよいよ第三弾の、清瀬保二 作曲『弦楽四重奏曲 変ロ調(1951)』に着手しています。
・尾崎宗吉 作曲『小弦楽四重奏曲 Op.1(1935)』 柳澤康司:監修 2005年 音楽の世界社より出版
・清瀬保二 作曲『無伴奏チェロのための二つの楽章(1973)』 柳澤康司:監修 2008年 音楽の世界社より出版

この二冊は、これまでに私が監修した日本の室内楽作品の楽譜です。演奏家が自国の作曲家の作品監修をすることは、ヨーロッパなど芸術先進国ではごく自然に進められてきた仕事のようですが、今までの日本の演奏家達は余りこの分野には積極的になれなかったようです。私は、150年余り前に西洋音楽がこの国に正式に輸入されてから西洋音楽が日本でどのように思考的な発展をしてきたのかといった面からも、日本人作曲家の作品にとても興味を覚えます。なにはともあれ益々この仕事を前進させていきたいと考えています。私がチェリストとしてやってゆくこと。それは先人である日本の作曲家達の残したチェロのために書かれた作品、チェロを含む弦楽器の作品を研究して監修・出版することです。私のライフワークの一つとして、これまでの監修とその記録を、ここにご紹介しましょう。
チェリスト 柳澤康司
【尾崎宗吉作曲『小弦楽四重奏曲』】 監修記録Ⅰ~2005年10月1日
戦前の日本音楽界に彗星のごとく現れて、戦時中に夭折した作曲家 尾崎宗吉(1915-45)の代表作ともいえる“小弦楽四重奏曲Op.1(1935)”は、山田耕筰やK.プリングスハイム、師の諸井三郎から絶賛され、当時の演奏家にも聴衆にも支持されたという日本人作曲家の作品としては稀有な存在でした。しかし戦前に人気だったこの作品も、戦後にはまったく忘れられてしまいました。楽譜は散逸を恐れた演奏家達によって写譜されて防空壕にまで持っていかれ~それらの幾つかは焼失したそうです~写本が残されたのです。幸いにも当時、作曲家との交流のあった演奏家の手許に直筆譜が残されていました。また他の演奏家の写本も一点確認でき、それをもとに疑問点や誤りと思われる箇所を演奏可能なように監修しスコアとパート譜を完成させました。また楽譜の紙にもこだわって、演奏中にめくりの音が少ない紙質を選びました。この作品は、日本人作曲家をはじめ、尾崎宗吉の研究もしている、音楽評論家 小宮多美江氏によるクリティーク80 によって、20年程前に復活演奏が果たされ、その後も何度かコンサートにのることはありましたが、どれもが不完全な部分を残したままでした。およそ10年の歳月をかけての私にとってはとても感慨深い仕事でしたし、この“小弦楽四重奏曲”が日本の室内楽作品のスタンダードナンバーになるものと確信しています。※この楽譜は国会図書館・加須市立図書館などに収蔵されています。
【尾崎宗吉作曲『小弦楽四重奏曲』】 監修記録Ⅱ~2006年10月14日
昨年出版した尾崎宗吉(1915-45)の“小弦楽四重奏曲”が《室内楽コンサート49》で演奏されるというので、音楽評論家の小宮多美江氏と、高円寺のサロン・ド・ノエルを訪れました。チェロを演奏するだけでなく、時代の移り変わりによって埋もれてしまった日本の優れた音楽作品を再び世に送り出すための楽譜監修も、私のライフワークです。演奏したのは、作曲家 芥川也寸志の薫陶を受けた、アマチュアオーケストラ新交響楽団のメンバーから成る、西巣鴨弦楽四重奏団で、満席の会場には彼等のコンサートを支える根強いファンがいることを感じさせました。この“小弦楽四重奏曲”が、プロアマ問わず多くの演奏者達によって室内楽のスタンダードなレパートリーとして、浸透して行くことは監修者としてこのうえなくうれしいことです。演奏を聴き終え外に出ると、あたりは爽やかな秋の夕暮れ。私は新たな気分で今手がけている作品の監修にとりかかるため家路を急ぎました。やがて日本人の手によって生まれた曲の数々が、多くの演奏家と聴衆に愛される希望を抱きながら。
【尾崎宗吉作曲『小弦楽四重奏曲』】 監修記録Ⅲ~2007年4月14日
尾崎宗吉の小弦楽四重奏曲が、少しずつですが演奏されるようになって来ているようです。モーツァルトのアイネ クライネ ナハトムジークがすっかり弦楽アンサンブルのスタンダードナンバーになっているように、1935年に発表された、この小弦楽四重奏曲が日本の弦楽曲のスタンダードナンバーになって欲しいと願っている私にとっては喜ばしいことです。この作品の価値は、戦前の日本の弦楽四重奏の中でも演奏回数が多く、当時の演奏家達が戦争時に散逸を恐れて写譜をして残そうとしたことからもわかります。幸いにも直筆譜は戦禍をくぐりぬけて奇跡的に残りました。監修にあたって、私はまず、直筆譜、写譜、幾つかのコンサート時に使用された演奏譜などを調査し、比較・研究を進めてから、スコアとパート譜の制作に取りかかりました。譜めくり時にノイズの出ないような紙質と、見開き3ページの特殊印刷など工夫を凝らし、直筆にある幾つかの問題箇所に対しての提案を書き加えたものが、2005年に音楽の世界社より出版されたのでした。
また楽譜を購入し演奏した方々から寄せられた質問に答えることは、監修者として興味のあることです。例えば、先日、東京芸術大学の学生から寄せられた質問に対する私からの回答です。
~さて、第一楽章の主題提示部と再現部で、作曲家が音に変化を持たせているということについて比較してみましょう。 第1楽章の10小節目主題提示部のファーストヴァイオリンのパッセージのEs-Dと、94小節目主題再現部のパッセージ Es-Cでは、作曲者は明らかに音を変えています。たったこれだけの事ですが、実際に旋律として響いたときには音色の効果を感じさせます。さりげないこの手法からも、私は尾崎宗吉の音楽に対する直感の確かさを感じます。~
【清瀬保二作曲『無伴奏チェロのための二つの楽章』 監修記録Ⅰ~2007年8月18日
コンサートも一段落したので、さて夏休みをと思っていたのですが、やはり落ち着かず、結局仕事をしています。私のライフワークの一つ、日本の優れた室内楽作品の研究で、前回は尾崎宗吉の小弦楽四重奏曲でしたが、今回は、清瀬保二の“無伴奏チェロのための二つの楽章”の楽譜の作成と監修です。清瀬保二は悠久の時代から日本人の内面に広がっていた響きの世界を、その独自の感性と鋭い耳でとらえた音楽を創造しました。機能和声では包括できない清瀬の音楽観は、若き日の武満徹に決定的な影響を与えたと言われています。“無伴奏チェロのための二つの楽章”は、これからの日本人チェリストのレパートリーをさらに豊かにする作品だと感じています。直筆譜をもとにした楽譜が出来上がりましたので、あとは細部にわたって監修を進めてゆきたいと考えています。秋には、音楽の世界社より出版される予定ですので、どうぞご期待ください。
【清瀬保二作曲『無伴奏チェロのための二つの楽章』】 監修記録Ⅱ~2007年8月21日
秋の出版に向けて、清瀬保二の無伴奏チェロのための二つの小品の監修を進めています。手元にあるのは、初演時の演奏者による演奏譜と作曲者自身の原典譜(浄書譜)を演奏譜と照らし合わせて作った楽譜の二種類なのですが、二つの楽譜には明らかな音の違いが細部にわたってあり、また浄書と初演譜の時期が一致しないために、出版ではその違いを比較するような版にするか、二種類の版をそれぞれに作成するか考えています。例えば、演奏譜で Lentoとある第一楽章は、作曲家による浄書では Lento Malinconico とあり、初演譜をもとに再演された演奏(とても優れた演奏にもかかわらず)の録音では、Malinconico とは対照的な明るく開放的なアプローチが聴かれるのです。こうしたことは案外、他の様々な楽曲の場合でも起きていることが多く、出来うる限り作曲者の意向に忠実な内容のものにしたいと考えています。また演奏者の解釈による書き込みが、時として作品の価値を歪めてしまうこともあるのかもしれません。実際に2種類の楽譜を比較演奏してみると、やはり作曲家の浄書はすっきりとしていて、作品の意図が明確に感じられます。これから細部の見直しをしてゆきたいと考えています。
【清瀬保二作曲『無伴奏チェロのための二つの楽章』】 監修記録Ⅲ~2007年9月19日
清瀬保二“無伴奏チェロのための二つの楽章”について、スケッチを含む数種類の直筆楽譜を読み進めるうちに、ようやく最善の方向が見えてきました。監修とは面白いものです。
【清瀬保二作曲『無伴奏チェロのための二つの楽章』】 監修記録Ⅳ~2008年4月14日
昨秋に出版を予定していました“清瀬保二:無伴奏チェロのための二つの楽章”につきまして、年末からの過密スケジュールのため日本楽派のファンの皆様にはお待たせしてしましましたが、いよいよこの春に出版される運びとなりましたのでお知らせします。前回、“尾崎宗吉:小弦楽四重奏曲”~音楽の世界社~に続く柳澤康司監修楽譜の第二弾です。詳細は後日お知らせします。
【清瀬保二作曲『無伴奏チェロのための二つの楽章』】 監修記録Ⅴ~2008年6月10日
「良寛や一茶にみられる人生に即したリアリスト。」作曲の恩師であった清瀬保二について武満徹は、簡素な言葉を持ってこの作曲家を適確に語っています。
昨年から、何度かお知らせしていましたが、清瀬保二 作曲“無伴奏チェロのための二つの楽章”監修:柳澤康司が音楽の世界社から、いよいよ出版されました。前回の、尾崎宗吉“小弦楽四重奏曲”に続く、私の監修楽譜の第2作目です。この作品が、日本のチェロ奏者の新たなレパートリーとしてもよりスタンダードなものになってほしいと考えています。
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更新日:2009年6月25日(木) 10:16 PM | カテゴリー:コラム
